歯周病の治療〜自費治療の検査から治療まで〜
こんにちは。歯科衛生士の鈴木です。
前回のコラムで、保険適用における歯周病治療の検査や治療についてお話させて頂きました。歯周病治療は、病状や患者様のお口の環境によって、様々な選択肢があります。
日本の保険治療は一定のエビデンスのある治療を患者さまが平等に受けることのできるものです。しかしながら保険診療で行える検査、治療には、特定の条件や制約が存在します。治療内容も、ひとりひとりのお口の状態にカスタマイズすることはできません。しかし、当院では保険では適応でない検査や治療を、患者さまの状態によってご説明させて頂き治療の選択肢やより正確な検査データを得られるような体制を整えております。残念ながら保険適用外のため全額自己負担の自費治療にになりますが、一方で、治療の選択肢は広がり、患者様のより細かいニーズに対応できるようになります。今回は、当院で行なっている自費診療における歯周病の検査・治療方法について、詳しくご説明します。
1、 自費の歯周病の検査
⚫︎BANA検査
虎ノ門ヒルズ駅前歯科では、歯周病の細菌検査は2種類ご用意しています。まず一つはBANA検査というものです。以前のコラムでもご説明しましたが、歯周病の発症や進行にはお口の中の細菌のPorphyromonas gingivalis, Treponema denticola, Tannerella forsythiaの3種類の菌が発症の原因になることがわかっています。この3菌種は、特定の合成ペプチドを分解するトリプシン様活性を持つことが分かり、その基質であるBANA基質を用いることにより、3つの菌由来の酵素を特異的にかつ高感度に検出できる仕組みです。少し難しいのですが端的に言うと、3菌種がもつBANA分解活性を検出することにより菌の存在を調べることができる検査です。患者さまの歯周ポケットからプラークを取り、BANA検査用のシートに塗布、歯周病原菌が存在するとBANA気質が分解されてβ-ナフチルアミドが遊離します。するとβ-ナフチルアミドが青色の発色剤と化学反応を起こし、判定膜に青色を検知することができます。検査における痛みもなく検査結果も迅速なため治療後の再評価にも用いることができ治療の質も一段と上がります。
●ぺリオアナリーズ
二つ目の歯周病菌検査に、ぺリオアナリーズ検査キットをご用意しております。
患者さまの歯周ポケットに専用の器具を挿入し、滲出液を採取します。痛みはほとんど感じません。採取した検体を、迅速性と定量性に優れたリアルタイムPCR法で歯周ポケットに存在する細菌を特定します。1〜2週間程で検査結果を報告する事ができます。
PCR法とは、新型コロナの感染を確認する時にも使用する検査方法なので、耳にした事があるかもしれません。PCR法では、細胞や細菌、ウイルスのDNAやRNA(遺伝子)を増幅し、目的とする生物の有無を調べる事ができます。BANA検査では、細菌の持つ酵素を検知し、病原菌の存在の有無を見る検査ですが、ぺリオアナリーズは、細菌の遺伝子を検出するので、どの菌種がどれくらいいるのかを特定することができます。
ぺリオアナリーズは、プランが3種あり、Basic(5菌種)・Premium(9菌種)・Platinum(10菌種)が選べます。
測定可能な菌種は、Aa菌、Pg菌、Tf菌、Td菌、Pi菌、Pm菌、Fn菌、Cr菌、Ec菌、Ca菌です。菌種によって及ぼす影響や、処置内容が変わります。検査結果と、患者さまのお口の中の状態から、治療計画を立てさせていただいております。
⚫︎CT画像による診断
保険で撮影するパノラマ画像やデンタル画像で得られるのは2次元の平面的な情報のみになります。CT画像を用いることで3次元の立体的な情報が得られます。歯や歯茎の下の、本来見えない部分を立体的に把握することで、病状をできるだけ正確に把握・診断し、安全面に配慮し治療を行うのに重要な役割を担っています。また、治療の際も手技を的確にイメージすることが可能になります。
2、 自費の歯周病治療
⚫︎ペリオウェイブ-Periowave(光線力学療法)
メチレンブルーを主成分とするバイオジェルと呼ばれる染色液で、歯周ポケット内の歯周病菌を染めます。このバイオジェルにレーザーを照射すると、光を吸収すると化学反応が起こり、活性酸素を大量に発生させます。活性酸素は人体には安全ですが、歯周病の原因となる細菌を殺菌する特徴があります。
抗生物質を使用しない治療ですので、治療を繰り返すうちに「耐性菌」ができる心配はありません。
⚫︎FMDI(full Mouth Disinfection)
FMDIとは、抗生物質の服用を併用し、1~2週間でSRP(歯茎縁上、縁下の歯石の除去)を終えることです。
通常、保険適用のSRPでは、お口の中の歯を6ブロックに分け、4~6回かけて行います。連日通院できるわけではないので、終わるまでに数ヶ月かかってしまうことがあります。その間に治療が終わっていない所から、治療が終わった箇所へと再感染するリスクがあります。しかしFMDIは、歯周病原菌の抑制に効果のある抗菌薬を用いて、薬剤が奏功している期間(1週間)の間に1~2回来院いただき、全ての歯周病原菌を除去する治療方法です。抗生物質を服用する事で、その期間中の再感染を防いで高い治療効果を得る事が出来ます。
進行した歯周病でお悩みの方にお勧めです。
⚫︎プロバイオティクス
近年、お口の中の常在菌に対するプロバイオティクスが注目されています。
プロバイオティクス(probiotics)は抗生物質(antibiotics)に対比される言葉で、共生を意味するプロバイオシスを語源としています。
口腔内細菌は虫歯や歯周病だけではなく、生活習慣病や心疾患などの全身疾患の病気にも影響を与えていることがわかってきました。様々な病気の予防のためにも口腔内細菌の改善が大切になります。人体に500種類500兆個以上存在する人体常在菌の「菌質」は、健康状態を大きく左右します。
プロバイオティクスとは、善玉菌が口腔・胃・腸内などにきちんと定着する細菌療法のことを言います。ただ善玉菌を摂ればいいということではありません。現在、口腔内細菌の改善に効果があると言われている一つに、L. ロイテリ菌が挙げられます。お口から大腸まで、ヒトの全ての消化管に定着できることが確認された母乳・口腔由来の乳酸菌です。歯周病原菌を殺すのではなく繁殖をしないように抑えるという研究データがあり、その為、歯周病菌の量をコントロールするためにも歯科医院でクリーニングを行ったうえでロイテリ菌を摂取することが効果の発揮につながります。
当院では、活用しやすいようロイテリ菌のタブレットを販売しております。
活用方法などは、スタッフへご質問ください。
⚫︎口腔除菌療法-3DS(Dental Drug Delivery System)
歯科医院で、メインテナンスを受けた直後は、お口の中の細菌量は減少しますが、菌種間の構成比率は変わりません。時間が経つと、元のバイオフィルム(細菌の塊)がお口の中に再生してしまいます。メインテナンスで細菌を減らした直後、7〜10日間セルフケア後に、専用のマウスピースに薬剤ペーストを入れた状態で装着する3DSを行うことで、口腔内フローラの細菌の構成比率を改善します。
⚫︎歯周組織再生療法
ほとんどの歯周病治療では、失われた歯周組織(歯を支えている歯槽骨や歯根膜など)の回復は難しいです。しかし、歯周外科治療に歯周組織再生療法を取り入れることで、審美的にも、機能的にも回復が見込めるようになります。 患者さまの症状やご希望にあわせて、適切な処置をご提案します。
―GTR法(Guided Tissue Regeneration)
メンブレンと呼ばれる薄い幕状の素材を設置することで、失われた歯周組織の代わりに新しい歯周組織を再生させて、歯の支持構造をできる限り元の状態に戻す方法です。
―エムドゲイン(Emdogain)
エムドゲインゲルという塗布剤によって歯周組織を回復させる方法です。幼少期に歯が生えてくる際に重要な働きをするタンパク質の一種でできており、歯の発生過程に似た状況を再現します。
初めて歯が生えたときと同じような強固な付着機能を持つ歯周組織の再生を促し、健康な歯周組織を取り戻します。
まとめ
歯周病は、軽度の場合、歯ブラシの時に出血がある、体調の悪い時などに歯茎が腫れた気がする、など歯周病の自覚がないまま始まります。歯の動揺、歯茎が痩せた、歯の根が露出して歯が長くなったと感じる、口臭がする、硬いものが噛めなくなる、など様々な症状が出て、生活に支障が出てくる頃には、すでに歯周病は中等度や重度に進行しています。歯周病は完治が難しく、進行抑制や現状維持を目指した治療になる事が多いです。病状の進行状況によって、どのような治療を受けるかで、歯が残せる確率が大きく変わります。歯周病の保険治療は一定のエビデンスのある治療を患者さまが平等に受けることのできるものですが、患者さまひとりひとりのお口の状態にカスタムすることはできません。全額自己負担になりますが、より正確な状態を把握し、状態に合ったより効果のある治療法を選択できるのが自費治療のメリットです。
総じて、患者さまが保険と自費治療を選択する際には、患者さまの予算やニーズ、そしてお口の中の状態を考慮することが重要です。患者さまが適切な治療法を選択できるよう、当院では初診時のカウンセリングから診査、診断を大切にしております。歯周病心配だな、このままの治療でいいのか、どんなお悩みでもお気軽にご相談ください。