歯周病の治療〜保険治療の検査から治療まで〜
こんにちは。歯科医師の戸澤です。歯周病は、細菌の感染によって引き起こされる慢性炎症性疾患です。細菌の活動と身体を守る働き(免疫力)とのバランスが崩れた時に歯周組織が破壊されてしまいます。歯周ポケット内に細菌が長期間とどまると、歯周組織は慢性的刺激を常に受け、患者さま自身の細胞が過剰な免疫応答、炎症反応を繰り広げ、歯周組織の破壊に関与します。そのため、日々のセルフケアや定期的なプロフェッショナルケアが歯周病の予防や治療には重要です。さらに、生活習慣も歯周炎の発症や進行に影響を及ぼしていること、歯周病はあらゆる全身疾患にも影響することがわかってきています。健康寿命をより長く、ご自身の歯で美味しい食事をするためにも定期的な検査を行うこと、歯周病になってしまった時の適切な治療法について知って頂きたいと思います。今回は保険定期用の歯周病の検査、治療法について解説したいと思います。
1、 歯周病の検査
●プロービング検査
歯周病で欠かせないのがプロービング検査という歯周ポケットの深さを測る検査です。歯周病が進行すると、歯と歯茎の間の溝である歯周ポケットが深くなります。みなさんも経験があるかもしれませんが、目盛りのついたプローブと言われる細い器具を溝に入れで、歯周ポケットの深さや出血の有無を調べます。
●レントゲン検査
レントゲン検査により、歯を支えている骨(歯槽骨)の量を調べます。歯周病に罹患していると、歯槽骨が吸収されているため、歯の根を支えている骨の量が少なくなっていることがわかります。支えが少なくなればなるほど歯周病が進行し、重症化します。
●歯の動揺度の検査
歯の根は歯槽骨と直接くっついているわけではなく、歯根膜という靭帯を介して歯槽骨に植っています。そのため、健康な歯でも目には見えたり感じることはなくてもわずかに歯は動きます。しかし、歯周病などにより歯根膜に炎症があると歯と歯槽骨との結合が緩んでしまうため、歯の動揺が大きくなります。動揺度は3段階で評価されます。
●噛み合わせの検査
歯周病の原因には噛み合わせによる力の不均衡が原因になることがあります。歯周病に罹患している歯に強い力がかかることで歯周病の進行を助長します。また、噛み合わせによって強い力が歯に集中することで歯根膜がダメージを受け、歯の動揺が大きくなっていくと細菌に感染しやすくなり歯周病を罹患することがあります。そのため、噛み合わせの検査を行う必要があります。
2、 歯周病の治療
歯周病は、慢性炎症性疾患です。歯周病の直接の原因は、プラーク(常にお口の中にいる、多種多様な口腔内細菌が繁殖し、塊になったもの)の感染であることがほとんどです。しかし、生活習慣や、全身疾患などが、歯周病を悪化させるリスクファクター(危険因子)として存在しています。歯周病が生活習慣病の一つと言われる由縁です。歯科医師や歯科衛生士による歯周病治療でいかに、歯周病のリスクファクターを少なくできるかが重要です。
●全身的なリスクファクター(生活習慣など)
・ストレス
・不規則な生活
・食習慣
・喫煙
・糖尿病
・その他(遺伝、、性別、年齢、女性ホルモンの影響、肥満、薬の影響など)
●局所的なリスクファクター(口腔内の環境など)
・歯石
・歯並び、噛み合わせ
・不適合な被せ物や詰め物
・口腔習癖(口呼吸、咬爪癖、吸唇癖など)
・歯磨き など
これらは、患者さま自身では気づいていないことも多いです。
毎回の診察の際に聞き取りを行い、改善できるものについてはご指導、治療介入をさせて頂きます。改善の難しいものについては、適応しやすくなるように治療計画を改善いたします。
次に、検査、診断後に行う具体的な保険治療についてご説明します。
●歯周基本治療
歯周基本治療は歯周病を引き起こした原因を見つけて、それらを除去していくことです。下記にその内容をご紹介します。この流れの肝となるのがプラークコントロールを継続して行うことができるかどうかです。プラークコントロールは患者さまご自身で行うセルフケアと、歯科衛生士や歯科医師が行うプロフェッショナルケアです。この基本的なプラークコントロールができていることがその後の治療成果につながります。
・口腔衛生指導(歯ブラシのやり方の指導、食習慣の指導など)
・スケーリング(歯茎から上に出ている歯に付着する歯石除去)
・スケーリングルートプレーニング(歯茎の下に入り込んでいる歯石除去)
・噛み合わせの調整、動揺している歯に対する固定
・むし歯や歯が合っていない被せ物・詰め物など、プラークが付着しやすいところの治療
・治療介入が難しい歯、痛みなどで保存が難しいと判断、同意頂いた歯については抜歯
これらの治療には、保険のルールに則り、口腔内状況に合わせて手用器具や、超音波スケーラーなどを使い分けて行います。
●再評価
歯周基本治療が終了すると、治療に対する歯茎などの歯周組織の反応を見るため、再評価(再度歯周病検査)を行います。
歯茎に炎症がなく、歯周ポケットが4m m未満、プロービング検査の時に出血がない、歯の動揺が生理的範囲にある時、歯周病が「治癒」したと判断します。「治癒」した場合、数ヶ月に一度、メインテナンスを継続することを推奨しております。
●歯周外科治療
しかし、歯周基本治療を行っても、4m m以上の深い活動性の歯周ポケットが残存していたり、出血や炎症が続く場合、歯周外科治療を行う場合がございます。その場合は、患者さまの全身疾患に配慮し、歯周外科治療の必要性、適応を十分に考慮し、適切な手術を行います。
●口腔機能回復治療
歯周基本治療、歯周外科治療後、口腔機能(咬合、咀嚼、審美、発音機能など)の回復のために、被せ物をしたり入れ歯を作製したりします。安定した咬合を確立し、適切な咬合機能を回復する目的で行います。矯正治療を行う場合もあります。
●歯周病重症化予防治療
歯周基本治療や歯周外科治療、口腔機能回復治療により、歯周ポケットが4m m未満、炎症を認めない場合、「治癒」と判断し、メインテナンスを開始します。
一方、4m m以上の歯周ポケットや炎症が残存する場合は、原因を追求し、歯周基本治療や歯周外科治療を再度行うか検討します。
●SPT(supportive periodontal therapy)
歯周基本治療や歯周外科治療、口腔機能回復治療により、歯周組織のほとんどが治癒したが、炎症がなくとも深い歯周ポケットが残存した場合、「病状安定」と判断します。安定した状態を長く維持するために行う処置をSPTと言います。スケーリング、スケーリングルートプレーニング、咬合調整などを中心に、患者さまの口腔内に合わせて、毎回処置内容を検討し、毎月〜2、3ヶ月に1度繰り返し行います。
まとめ
保健適用の歯周病検査、治療は、上記の内容を保険のルールに則って行なっていきます。日本の保険治療は一定のエビデンスのある治療を患者さまが平等に受けることのできるものです。しかしながら保険診療で行える検査、治療には限りがあります。当院では、歯周病が起こっている原因は何か、より精密に検査を行う機器や体制を整えております。さらに患者さまの身体の負担など様々な点から、歯周病の治療はできるだけ外科処置を避ける方法を患者さまに選択して頂きたいと考えています。4mm以上の歯周ポケットが残ってしまっている、さらに細菌検査でも歯周組織を破壊するような菌が存在するとわかった場合、積極的に細菌を減らすようなレーザー治療や薬剤の治療を自費診療にはなりますがご用意しています。自費診療の治療と組み合わせることで、さらに先端医療による歯周病の治療を受けることができます。歯周病でお悩みの方、歯茎から定期的に出血があるなど少しでもお悩みのある方はぜひ一度ご相談ください。次回のコラムでは自費診療で受けることのできる歯周病検査、治療についてご説明したいと思います。今回もお読み頂きありがとうございました。